まず髪の毛だ。髪の毛を切ってからだ。そしてそのあと階段だ。もう一ヶ月はためらっているあの階段をのぼる。そして森を抜けてあの山小屋で倒れている娘をさらに大きくのしたあと、背負い、背負った勢いで山を下る。下った勢いで九段下の駅のホームで、人魚の車掌がひれを滑らせながら「ドアが閉まります」というのを聞く。

のした娘はここで電車に乗せ、俺はとりあえず人魚の車掌とじゃんけんをする。奴は「パー」俺は「グー」、罰ゲームはとにもかくにもありえない文章を一日分書くということ。例えばオセロに緑色がつきもののように、例えばカラスに早朝がお似合いのように、例えば近所のクリーニング屋の主人がお茶の水博士に似ているように、その奥さんが「ハンガーは一本10円でひきとりますよ」とさらりさらりふわりゆらりと言ってのけるように。異様に。